ブックレビュー社
「本書は,明治維新から第2次世界大戦終戦に至るまで,日本及びその植民地に建設された郊外住宅地についての論考をまとめたアンソロジーである」。30の事例が紹介されたいるが,そのほとんどがわが国の近代化とともに出現した有閑階級と労働者階級の中間に位置する中産階級の人たちのために開発された住宅地である。
今でこそ,"1億総中流(中産)"といわれるように階級意識が薄れているが,当時の中産階級は農民や労働者と一線を画するエリート集団であり,プチブルとも呼ばれていた。こうした中産階級の人たちが求めた住まいは,その階級にふさわしい物でなければならず,農家や商家と違った居住スタイルを演出する必要があった。
その居住スタイルを確立するにあたって範を取ったのが洋風住宅である。西欧の生活様式を導入し真似ることで,中産階級としての自己満足を充足させていったのである。こうした需要に応えるかたちで開発された住宅地は「田園都市」「文化村」と呼ばれ,日本各地に登場することになる。
その具体的な展開は,紹介されている30事例に詳しく記述されており,開発当時の写真や図面も多く解りやすい。また,開発主体も資本家,鉄道会社,土地会社,組合,その他と多様でそれぞれに特色がある。さらに,開発と時代背景との関連もていねいに押さえられており,中産階級がわが国の近代化にどのように係わってきたかも読みとれる。
地域開発もしくはまちづくりという視点から各事例のプロジェクトをみると,戦後から現在まで継続されているニュータウン開発よりも,開発理念が明確であり,自然環境との共生を重要視している点などは,むしろ現在よりも進んでいた。だが,西欧に範を取ったことで,土着の地域文化から浮遊し,アイデンティティーの喪失したまちづくりでもあった。これらの問題は現在の住宅地開発にも通じていることである。巻末のデータも充実している。 (ハウジング・アナリスト 松下 寛光
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